クックパッドと@コスメから考えた、課金文脈の話
かつて私はクックパッドを高く評価していました。大学院時代の研究テーマが無形資産の評価ということで、レシピという膨大なデータベースは、複製コストが低く、ネットワーク効果もある「資産」に見えていました。
一方で、@コスメを運営するアイスタイルの評価はかなり厳しめでした。2014年ごろに大幅に減益しており、さらにそのタイミングで実店舗を出すという、さらに利益率が下がりそうなことをしていたからです。人件費や家賃といった固定費も重い。会計的に見れば、合理性に欠けるように思えました。
しかし結果は逆でした。
@コスメの株価は何倍にもなり、クックパッドは動画アプリに主役を奪われ、現在はリストラ局面に入っています。この差は何だったのか。最近になって、ようやく腹落ちした点があります。
アプリの300円と、実店舗の3,000円は別物
考えていて気づいたのは、これは金額の問題ではないということです。アプリで300円課金するのには、私は強い抵抗があります。
一方で、実店舗ではその10倍程度の金額を、ほとんど考えずに支払っています。人がケチなのではありません。支払いの文脈が違うのです。アプリ内課金では、無形で、比較が容易で、無料代替が常に存在します。そのため支払うたびに「本当に必要か?」という理性が働きます。実店舗では、移動し、時間を使い、空間を体験しています。すでにコストを払っているため、「せっかくだし」という心理が自然に働きます。
実店舗は、判断を簡略化し、決断を後押しする装置でもあります。
@コスメは無形資産に「重さ」を与えた
@コスメの本体は、化粧品そのものではありません。口コミという集合知です。それをWEB上の情報に留めず、実店舗という物理空間に接続したことで、口コミは信用に変わりました。消費者にとっては、失敗しにくい購入体験になります。メーカーにとっては、販促費を払う価値のある「場」になります。
確かに利益率は下がりました。しかし同時に、真似しにくい参入障壁が生まれました。無形資産に重力が与えられた瞬間だったと思います。
クックパッドは「軽すぎた」
一方で、クックパッドのレシピは軽い資産でした。テキスト情報であり、代替が容易で、無料文化から抜け出せない。
検索や動画に簡単に置き換えられ、課金の決断点を作れませんでした。結果として、人は集まるが、金は残らない構造に陥ったように見えます。これは経営努力の問題というより、資産の性質そのものの問題だったと感じています。
無形資産を見るときの視点
この二社の対比から得た教訓はシンプルです。無形資産は、軽いままだと生き残れない。物理性や習慣、信用と結びつけて「重く」できた企業だけが強くなります。
もう一つ重要なのは、お金が落ちるのは「判断を放棄できる場所」だという点です。毎回、合理性や納得を要求するビジネスは、思っている以上に脆いのかもしれません。









