アイビスペイント(ibisPaint)をどう分析するか

はじめに

最近、アイビスペイント(ibisPaint)というアプリについて調べる中で、強い違和感を覚えました。それは「全世界で5億ダウンロードを超えているにもかかわらず、時価総額が約130億円しかない」という点です。この数字は、成功しているプロダクトとしてはあまりにも小さく見えます。本記事では、アイビスペイントのビジネスモデル、ユーザーの実態、そしてAI時代における立ち位置について、自分なりに考えを整理してみたいと思います。

第1章 5億ユーザーという数字は異常ではないか

まず前提として、「5億」というユーザー規模は世界的に見ても相当大きい数字です。参考までに、Facebookが最初に5億ユーザーを達成したのは2010年頃ですが、その時点での企業価値はすでに数兆円規模と見られていました。もちろん、SNS 広告プラットフォーム クリエイティブツールではビジネスモデルがまったく異なるため、単純比較はできません。それでも、「5億人に使われるプロダクト」が時価総額130億円にとどまっているというのは、やはり珍しいケースです。

第2章 実際に“使っている人”はどれくらいいるのか

ここで重要なのは、「ダウンロード数=アクティブユーザー数ではない」という点です。アイビスペイントは無料で始められるため、

⚫︎試しに入れた

⚫︎一時的に使った

⚫︎学校や趣味で短期間だけ触った

というユーザーも相当数含まれているはずです。特に日本では、中高生 イラスト初心者 タブレットやスマホでお絵描きを試したい層に広く普及しており、「プロ向けツール」というよりは裾野を極端に広げたサービスと言えます。その結果、ユーザー数は爆発的に増えた一方で、1人あたりの課金額(ARPU)は非常に低く抑えられていると考えられます。

第3章 Adobe型ビジネスモデルは再現できるのか

クリエイティブツールと聞くと、どうしてもAdobeが頭に浮かびます。Adobeは、

⚫︎プロ用途に特化

⚫︎高価格のサブスクリプション

⚫︎業務に不可欠なインフラ

というポジションを確立しました。一方で、アイビスペイントは真逆です。

⚫︎無料または低価格

⚫︎スマホ中心

⚫︎趣味・学習・娯楽用途

この構造上、Adobeと同じビジネスモデルを再現するのは難しいでしょう。ユーザーが「仕事で使わざるを得ない」状態にはなりにくく、価格決定力も限定的です。

第4章 AIは脅威なのか?

最近よくある議論として、「生成AIが絵を描いてくれる時代に、ペイントアプリは不要になるのでは?」というものがあります。この意見には一理ありますが、私は完全には賛成できません。なぜなら、アイビスペイントのユーザーが求めているのは、完成された“上手い絵” ではなく、 自分で描く行為そのもの 上達していくプロセス 描く時間の楽しさだからです。AIは「結果」を一瞬で出しますが、アイビスペイントが提供しているのは「体験」です。この2つは、競合しているようで、実は求められている価値が異なります。

第5章 それでも時価総額130億円という現実

ここまで見ると、ユーザー数は圧倒的 プロダクトとしての価値も高いにもかかわらず、なぜ評価が低いのか、という疑問が残ります。考えられる理由は、

⚫︎マネタイズの上限が見えやすい

⚫︎ユーザー層の可処分所得が低い

⚫︎プロ向け市場に深く入り込めていない

といった点です。つまり、「良いサービスだが、資本市場が好む成長ストーリーを描きにくい」という評価なのかもしれません。

おわりに

アイビスペイントは、「誰でも、いつでも、スマホで絵を描ける」という価値を世界規模で実現した、極めてユニークなプロダクトです。一方で、5億ユーザー 時価総額130億円というギャップは、投資家として非常に考えさせられます。この違和感の正体を考え続けること自体が、企業分析としてはかなり面白いテーマだと思います。

今後、課金モデルの進化 AIとの共存 ユーザー体験の深化がどう進むのか。この会社は、もう一段評価が変わる可能性も、逆にこのまま留まる可能性も、どちらも秘めていると感じています。

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