銀行員を辞めたい気持ちは正常だ|経験者が本音で語る

「銀行、辞めたいな」

そう思ったことが何度あっただろう。銀行員として働いていた頃、この気持ちは日常の一部だった。

シンクタンクに転じた今、あの頃の感情を振り返ると、辞めたくなるのは当然だったと思う。むしろ辞めたくならない方がおかしい、とすら感じる。

この記事では、銀行を辞めたくなる理由を本音でまとめた上で、それでも知っておいてほしいことを書きたい。


銀行を辞めたくなる理由、全部わかる

5年目まで給料が低すぎる

銀行員の給料は、最終的には悪くない。それはわかっている。しかしそこに辿り着くまでが長すぎる。

最近の銀行は残業がほぼゼロの職場が多い。一見ホワイトに聞こえるが、裏を返せば残業代による上乗せがないということだ。基本給だけで手取りを計算すると、20代のうちは同期の民間企業勤めとさほど変わらない。むしろ時間をきっちり管理される分、「早く帰れるけど、お金も増えない」という閉塞感がある。

「将来のための我慢」と言われても、20代の時間は有限だ。その我慢に見合うリターンが見えにくいのが銀行の給与体系だ。

時間管理が厳しすぎる

残業がないこと自体は悪くない。しかしその管理の仕方が問題だ。

「何時までに帰れ」という上からのプレッシャーは強い。仕事が終わっていなくても帰らなければならない空気がある。かといって持ち帰り残業もコンプラ上、厳禁である。結果として、仕事の質を上げることより「定時内に収める見せかけの効率化」に意識が向いてしまう。

自分のペースで仕事をしたい人間にとって、この管理体制は相当きつい。

ノルマがとにかくだるい

投資信託、保険、定期預金。毎月毎月、達成すべき数字が降ってくる。

問題はその数字の根拠が不透明なことだ。市場環境が悪くても、顧客のニーズがなくても、ノルマは変わらない。結果として「売れるものを売る」ではなく「売らなければならないものを売る」という構造になる。顧客のためになっているのか、自分のためになっているのか、だんだんわからなくなってくる。

売っている商品に魅力がない

これが一番きつかった。

手数料の高い投資信託、必要以上の保障がついた保険、低金利の定期預金。「自分だったら買うか?」と問われれば、正直に言ってNoだ。証券アナリストとして金融商品を分析する目が養われるほど、自行の商品の割高さが見えてしまう。自分が信じていないものを売り続けることの消耗感は、想像以上に大きい。特に仕組債を売り始めた時が一番辞めたかった。

方針がコロコロ変わる

「今年度はリテール強化」と言っていたのに、翌年度は「法人営業に注力」みたいなよく分からない方針転換が起きる。中期経営計画は発表されるが、現場への落とし込みは雑で、何を優先すべきかがいつもぼんやりしている。

方針が変わるたびに、研修があり、資料があり、会議がある。その割に現場は何も変わらない、というパターンの繰り返しだ。

上司がやる気なし

全員がそうではないが、やる気をなくした中堅・ベテランの上司が一定数いる。

実はこれには構造的な理由がある。銀行はある程度の役職まで出世すると、年収が1000万円を超えてくる。そこまで辿り着いた人間にとって、それ以上のポストを目指すインセンティブは薄い。守りに入るのは、ある意味合理的な選択とも言える。

しかしその割を食うのは若手だ。やる気のない上司の下では、良い仕事の仕方が学べない。「自分もこうなるのか」という将来への不安と絶望が、じわじわと積み重なっていく。

資格が多い、しかもほぼ役に立たない

銀行員は資格取得が半ば義務だ。銀行業務検定、証券外務員、宅建……。試験のたびに勉強して、合格して、また次の試験。

正直に言えば、実務に関係のない資格がほとんどだ。最近はDXとか、ITなんちゃらが人気である。FP(ファイナンシャルプランナー)はまだ顧客との会話で使える場面があるが、それ以外は「とにかく取らされている」感が強い。取得のための勉強が、本当に意味のある自己研鑽を圧迫している側面もある。達成感よりも消耗感の方が大きいのが実態だ。


それでも、銀行員であることのメリットはある

辞めたい理由を並べてきたが、公平を期すために銀行員のメリットも書いておく。

連休がしっかり取れる。 これは意外と大きい。銀行はまとまった休暇を取りやすい文化がある。その連休を使って海外旅行に行く同僚は多く、時間という意味での豊かさは確かにある。

社宅が安い。 家賃補助や社宅制度が充実している銀行は多い。都市部でも格安で住める環境は、実質的な給与底上げとして無視できない。

育休・産休がきちんと取れる。 公務員と並んで、銀行は育休取得率が高い職場だ。ライフイベントを迎えても働き続けやすい環境は、長期的に見て大きなメリットだ。

信用力は本物だ。 住宅ローンの審査、クレジットカードの審査、あらゆる場面で「銀行員」というステータスは有利に働く。銀行員経験者は転職市場でも一定の評価を受ける。公務員になる時も、面接での加点があると聞いた。

金融知識が身につく。 嫌々取らされた資格も、積み重なれば本物の武器になる。私自身、銀行員時代に培った財務分析の基礎が、今の投資活動に直結している部分も多少はある。


最後に、辞めることを恐れるな

メリットも書いたが、結論を言う。

辞めたいと思っているなら、辞めた方がいいと私は思っている。だらだらとやる気のないまま続けて20代を浪費するのはバカバカしい。

「銀行を辞めたら潰しが利かない」は嘘だ。銀行員経験者の市場での評価は高い。財務、融資、リスク管理。これらのスキルを欲しがっている企業は多い。現に私の同期も投資ファンドやM&A仲介、保険会社に転職した人もいる。他にも金融以外で自治体職員、教員、消防士、農業、、など様々である。

「給料が下がる」は本当かもしれない。しかし給料だけが仕事の価値ではない。自分が信じられる商品を売れること、合理的なルールの中で働けること、やる気のある上司や同僚に囲まれること。そういった環境の価値は、給料の差額では測れない。

私自身、出向という形で銀行を一度離れてシンクタンクで働いてみて気づいたことがある。環境が変わると、見える景色がまったく違う。銀行の中にいると当たり前に感じていたことが、外から見ると「なぜそうなっているのか」が客観的にわかるようになる。

その経験が、銀行という組織への見方を大きく変えてくれた。

辞めたいと思っているあなたへ。その気持ちは正常だ。まず一歩、今いる場所から視野を広げてみることをすすめる。


筆者:30代・証券アナリスト。銀行員シンクタンク研究員。日本中小型株を中心に投資を実践中。

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