私の四季報の読み方|証券アナリストが実践する「3つの絞り込み術」

四季報を買ったはいいが、どこから読めばいいかわからない。そんな経験はないだろうか。

私が初めて四季報を手にしたのは19歳の時だ。観光で訪れた東京証券取引所で四季報の編集長が講演していたのである。今思えば人生を変える出会いだったと思う。

この記事では、証券アナリストとして培った「四季報の読み方」を、実体験を交えながら解説したい。初心者向けの「四季報とは何か」という説明は省く。ある程度投資経験があり、四季報をもっと使いこなしたいという方に向けて書いている。


四季報は「全部読む」ものではない

まず大前提として、四季報は全ページを精読するものではない。

四季報の掲載企業数は約3900社。仮に1社あたり2分かけて読んでも、全部読み切るには130時間以上かかる計算だ。現実的ではない。

だからこそ重要なのが「絞り込み」である。四季報の使い方は大きく2つに分かれる。

ひとつはスクリーニングとしての使い方。つまり、膨大な企業群の中から「気になる銘柄」を発掘するための道具として使う方法だ。もうひとつは個別企業の深掘りとしての使い方。すでに気になっている企業の情報を確認・補完するために使う方法である。

私は主に前者、スクリーニングツールとして四季報を活用している。以下ではその具体的な手順を説明する。


ステップ1:まず「見出し」だけを高速スキャンする

四季報の各企業ページには、右上に太字の「見出し」が2行記載されている。これは四季報の記者が独自に取材して書いたコメントであり、その企業の現状を端的に表している。

例えばこんな具合だ。

  • 「最高益更新」
  • 「営業減益続く」
  • 「新規事業が本格化」
  • 「人件費増が重荷」

私はまずこの見出しだけを流し読みしていく。全3900社を見出しだけ読むなら、慣れれば2〜3時間で一周できる。

ここで重要なのは「ポジティブな変化」を示す言葉に反応することだ。「最高益」「急回復」「上振れ」「新展開」といったキーワードが目に入ったら、ページを折るかふせんを貼って後で詳細を確認する。

逆に「減益」「苦戦」「下方修正」といった見出しの企業は、基本的にスルーで構わない。もちろん逆張り投資家であれば別の見方もあるが、まずは素直にポジティブな企業を追いかけるのが効率的だ。


ステップ2:業績欄で「変化の兆し」を読む

見出しで気になった企業は、次に業績欄を確認する。

四季報の業績欄には、過去の実績と今後の予想が並んでいる。私がここで注目するのは以下の3点だ。

①売上高と営業利益の方向性

右肩上がりになっているか。単年の数字ではなく、3〜5年のトレンドを見る。一時的な増益よりも、継続的な成長が重要だ。

②会社予想と四季報予想の乖離

四季報には、会社が発表した業績予想に加えて、四季報記者の独自予想が記載されている。この2つに大きな差がある場合、何らかの変化が起きている可能性がある。

例えば会社予想より四季報予想が上回っている場合、記者が「会社の予想は保守的すぎる」と判断していることを意味する。こうした銘柄は上方修正の可能性があり、注目に値する。

以前、ある中小型の製造業でこのパターンを発見し、実際に数ヶ月後に上方修正が出て株価が大きく動いたことがある。四季報記者の取材力を侮れない、と実感した経験だ。

③営業利益率の水準

売上が伸びていても、利益率が低下していれば要注意だ。コストが先行しているのか、価格競争に巻き込まれているのか、理由を確認する必要がある。逆に売上横ばいでも利益率が改善している企業は、構造的に強くなっている可能性がある。


ステップ3:コメント欄で「ストーリー」を確認する

業績欄で興味を持てた企業は、最後にコメント欄(本文)を読む。

ここには事業内容、足元の状況、今後の見通しが200字程度で記載されている。私がここで確認したいのは「なぜ業績が変化しているのか」というストーリーだ。

数字はあくまで結果である。大事なのはその背景にある事業上の変化だ。新製品の投入なのか、コスト削減の効果なのか、市場環境の追い風なのか。そのストーリーが腑に落ちるかどうかが、最終的な投資判断の分かれ目になる。

例えば私が以前注目したHiクラテス(4172)は、国民皆歯科検診という政策の追い風を受ける歯科向けITシステム企業だ。四季報のコメントでその方向性を確認し、自治体担当者からの話とも一致したことで確信を深め、実際に購入した。コメント欄は短いが、それだけに記者の「取捨選択」が凝縮されており、重要な情報源だ。


私が四季報で特に重視する指標

ここからは、私が個人的に重視している指標を補足として紹介する。

PBR(株価純資産倍率)

バリュー投資家として、PBRが1倍を下回る企業には常に注目している。解散価値以下で買えるということは、それだけ安全マージンがある。ただしPBRが低い理由を必ず確認する。構造的な問題を抱えている企業は、安くて当然という場合も多い。いわゆるバリュートラップというやつだ。

自己資本比率

財務の健全性を見る指標として外せない。特に中小型株を見る際は、50%以上あると安心感がある。借金が多い企業は景気悪化時に脆弱になりやすい。逆に今のようなインフレ下の世では現預金しかないという企業も避けている。

ROE(自己資本利益率)

収益性の指標として重要だが、自己資本比率とセットで見る必要がある。借入を増やしてROEを上げている企業は、財務リスクを取って数字を作っているに過ぎない。


四季報を読む「習慣」について

最後に、四季報との付き合い方について一言触れておきたい。

四季報は年4回発行される。3月、6月、9月、12月の発売日前後は、私にとって一種の「棚卸し」の時間だ。保有銘柄の状況確認、ウォッチリストの見直し、新たな発掘。この習慣を続けることで、徐々に「自分なりの目線」が育っていく。今日のような暴落が起きる日には、ウォッチリストをストックしておき、その中からバーゲンセールとなった企業を買う。

最初は何を見ればいいかわからなくて当然だ。私も最初はそうだった。ただ、繰り返し読んでいくうちに「この会社、前回と何かが変わった」という感覚が生まれてくる。その感覚こそが、投資家としての地力だと思っている。

四季報は「答え」を教えてくれる本ではない。「問い」を立てるための本だ。そこに書かれた数字とコメントを出発点に、自分なりの仮説を立て、調べ、判断する。その繰り返しが、長期的な投資力につながっていく。

ぜひ次の発売日に、書店で手に取ってみてほしい。


筆者:30代・証券アナリスト(日本証券協会アナリスト検定会員)。シンクタンク勤務。日本中小型株を中心に中長期投資を実践中。

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