出世欲がないと割とストレスフリーという話|コスパで考える昇進の損得勘定

「出世したい」という気持ちが薄い。

正直に言うと、部長になりたいとか、役員を目指したいとか、そういう強い欲求が自分にはない。しかしだからといって、出世欲を持つ人を否定したいわけでもない。

今回は、出世欲というものをできるだけフラットに、そしてコスパの観点から考えてみたい。


経営者の立場なら「競わせる」のは合理的だ

最初に、もし自分が経営者だったら、社員同士を競わせる仕組みを作ると思う。

なぜなら、人間のモチベーションを長期的に維持する方法として、金銭よりも「地位」の方が強力だからだ。給料を上げ続けることには限界がある。しかし「部長」「役員」というポストは、人間の承認欲求に直接働きかける。

同期の誰が一番早く昇格したか。そのニュースには、出世欲がないと思っている自分でも、つい反応してしまう。これは本能に近い感覚だ。競争の仕組みを設計する側から見れば、地位は非常に安価で強力なインセンティブだ。


ある程度までの出世は素直にいいことだ

出世欲を全否定したいわけではない。

20代から30代にかけての昇進は、収入アップと責任の拡大がセットになっており、多くの場合コスパがいい。私のように株式投資をする上でも、投資に回せる資金が増えていくのはありがたい。仕事の幅も広がり、自分の市場価値も上がる。この段階での出世欲は、エンジンとして機能する。

問題はその先だ。


年収1000万円を超えたあたりから、コスパが崩れる

私の働く会社では、40代前半で年収1000万円になる人が多いが、そこからさらに上がる人は1200万円、役員手前の役職で1500万円になる。数字だけ見ると大きな差に見える。しかし手取りで考えると話が変わる。

日本の所得税・住民税の累進課税では、年収が上がるほど税率が上がる。年収1000万円台では、手取り率がガクッと落ちる。増えた額面の半分近くが税金と社会保険料に消えるイメージだ。

一方で、出世にかかるコストは増え続ける。管理職になれば部下のマネジメント、社内政治、責任の重さ。プレイヤーとして純粋に仕事に集中できた頃と比べて、消耗するエネルギーの質が変わる。

つまり、高いポストを目指すほど「投入するエネルギー」は増え、「手取りで受け取るリターン」の伸びは鈍化する。これが出世のコスパ問題だ。


出世欲がないと何が変わるか

出世欲を手放すと、いくつかのことが変わる。

まず、社内政治への関心が薄れる。誰が上司に気に入られているか、どの派閥が有利か。そういった情報を追いかける必要がなくなる。これが思いのほかストレス軽減につながる。

次に、目の前の仕事に集中しやすくなる。出世を目的にすると「評価されるための仕事」をしがちだ。出世欲がなければ、純粋に「意味のある仕事」を選びやすくなる。

そして、副業や投資など、会社外の収入源に意識が向きやすくなる。会社の給与だけに依存しない経済的な設計ができるようになる。


出世欲は悪いものではない。うまく使えば、キャリアを前進させる強力なエンジンになる。ただ、ある水準を超えたあたりで、そのエンジンのコスパを冷静に計算してみることをすすめたい。

投資と同じだ。リターンに見合わないリスクを取る必要はない。自分の時間とエネルギーも、有限な資源だ。


筆者:30代・証券アナリスト。銀行員シンクタンク研究員。日本中小型株を中心に中長期投資を実践中。

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