【要約】
- 結論: 株式市場では、行動量(売買頻度)と利益は反比例する傾向がある。
- 理由1(摩擦コスト): 頻繁な売買は手数料や税金といった確実なコストを生み、資産を削り取る。
- 理由2(石鹸の法則): 「ポートフォリオは石鹸と同じで、触るほど小さくなる」というウォール街の格言通り、統計的にも売買頻度が高い投資家ほどリターンが低いことが証明されている。
- 対策: 投資における正しい「努力」とは、頻繁に動くことではなく、感情を抑えて「何もしない退屈に耐える規律」を持つことである。
1. 物理法則と投資の決定的な違い
私たちが生きる実社会では、「労働価値説」が基本です。汗をかき、行動し、多くの労力をつぎ込んだ分だけ、得られる成果も大きくなります。物理の世界でも、エネルギーを投じた分だけ大きな仕事がなされます。
しかし、株式市場という特殊な空間では、この常識が通用しません。むしろ「努力と成果の逆説(パラドックス)」が存在し、動き回れば動き回るほど、利益の幅が縮小し、損失が拡大しやすいという残酷な法則があります。
2. ウォール街の格言「石鹸の法則」
この現象を見事に言い表した、ウォール街の古い格言があります。
「ポートフォリオは石鹸のようなものだ。触れば触るほど、小さくなっていく」
手垢をつけて何度もこね回すほど、石鹸がすり減っていくように、投資家の資産も頻繁な売買によって確実に削り取られていきます。
3. なぜ「動く」と損をするのか?
これには、明確な科学的・心理的な裏付けがあります。
① 確実なマイナスである「摩擦コスト」
物理の世界では、移動に「摩擦」が伴います。投資の世界における摩擦とは、「手数料」「スプレッド」「税金」です。 市場のリターンが不確実であるのに対し、この摩擦コストは「確実」に発生します。動けば動くほど、証券会社と税務署を儲けさせるだけで、自分の手元に残るエネルギー(資産)は流出していきます。
② データが示す不都合な真実
行動ファイナンスの研究(Barber & Odeanの分析など)によっても、「一生懸命に売買を繰り返す投資家」ほど、「買って放置している投資家」に比べてリターンが低いことが統計的に証明されています。
③ 本能の誤作動「行動バイアス」
人間には「何もしないこと」に苦痛を感じ、状況をコントロールしようとして何かアクションを起こしたくなる「行動バイアス(Action Bias)」が備わっています。しかし、相場が下落している恐怖の中や、急騰している熱狂の中で取る行動は、たいていの場合「最悪のタイミング」となります。
4. まとめ:投資における「正しい努力」の再定義
株式市場において、本当に報われる努力の方向性は、物理的な「動き」ではありません。
- × 間違った努力: 毎日の株価チェック、ニュースへの即座の反応、頻繁な銘柄の入れ替え。
- ○ 正しい努力: 感情を抑制する忍耐力、一度決めたルールを守り抜く意志、そして「退屈な時間に耐える規律」。
投資における最大の武器は「時間」です。無駄な動きを止めて静かに待つことこそが、最も高度で、最も利益を生む「努力」なのです。

